東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)166号 判決
1 本願商標の構成、指定商品及び登録出願日等特許庁における手続の経緯は請求の原因1、審決の理由の要点は同2各記載のとおりであり、引用商標の構成、指定商品、登録出願日、登録日及び更新登録日は同2(二)記載のとおりであること、本願商標からは「フエニツクス」の称呼を生じ、引用商標からは「フエリツクス」の称呼を生じることは、当事者間に争いがない。
2 そこで、両商標の称呼を対比すると、両称呼は、いずれも六音よりなり、第三音において「ニ」と「リ」の音を異にするほか、すべて同一の音の配列により構成されており、相違する第三音の「ニ」と「リ」はその発音において母音「イ」を共通にする近似音であり、しかも両称呼のそれぞれの中間に位置して、共通する前の音である「フエ」に続き、共通の促音「ツ」を伴つて「フエニツクス」、「フエリツクス」と一連に発音されるから、聴く者にはきわめて類似したものとして聴き取られるものである。したがつて、一般に、取引者、需要者が商品取引を行う場合において、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、彼此相紛らわしく、聴き誤るおそれがあり、両商標は称呼において類似するというべきである。
原告は、本願商標を称呼する場合の「ニ」の音は、それ自体明瞭に聴取される音であるのに対し、引用商標の「リ」の音はごく軽い流音であり、いずれも「ツ」の促音を伴つて発音されることによりその傾向は更に強くなる旨主張する。
しかしながら、「ニ」は鼻子音(n)と母音(i)の結合した音節であり、一方、「リ」は有声子音(r)と母音(i)との結合した音節であるが、子音(n)も、母音(i)と結合する場合における子音(r)も、ともに口蓋化した音である点で共通し、しかも、(n)と(r)はいずれも共通の母音(i)と結合し、(ni)、(ri)と発音されるものであるから、これが「ツ」の促音を伴つて発音される場合においても、前者の発音が明確であり、後者の発音が明確さを欠くものとして聴取されるというように、その発音の明確さにおいて顕著な差異があるものとは到底認めることができない。
また、原告は、本願商標は「不死鳥」あるいは「ヤシ科の植物名」という特定、顕著な観念を有するのに対し、引用商標は何ら固有の観念を有しない造語であるから、一般世人の注意をもつてすれば、両商標の称呼の違いを容易に識別することができる旨主張する。
本願商標から生じる観念が原告主張のとおりのものであることは明らかであり、これに対し、引用商標は取引者、需要者の受け止め方からすると、固有の観念を有しない造語であるとするほかない。しかしながら、本願商標と引用商標とは、前述のとおり、称呼における類似性がきわめて強いものであるから、右のような観念の有無等の相違を考慮しても、これによつて両商標が取引者、需要者に相紛れることなく、別個の商標として聴き取られ、区別されるものということはできない。
更に、原告は、本願商標と引用商標とが称呼を異にする非類似の商標であることは、引用商標と指定商品を同じくする旧第一八類、及び引用商標の指定商品に含まれる商品を含む第二五類に、欧文字「PHOENIX」と片仮名「フエニツクス」とを左横書きに併記してなる登録商標又は片仮名「フエニツクス」を左横書きしてなる登録商標が引用商標と併存して登録された事実に徴しても明らかである旨主張するが、原告主張の事実が存するからといつて、本願商標と引用商標を非類似の商標としなければならないものとは考えられない。
したがつて、本願商標と引用商標とは、称呼において類似する商標であり、また、本願商標の前記指定商品は、引用商標の前記指定商品中の「体育用機械器具、体操用機械器具」に包含されることが明らかであるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、商標登録を受けることができないものであつて、審決の判断は正当であり、審決には原告の主張する違法の点は存しない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編註〕 本件の特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五三年八月一〇日、別紙(一)のとおり「PHOENIX」の欧文字を左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第二四類「運動具、その部品および附属品」を指定商品として商標登録出願(昭和五三年商標登録願第五九三七三号。昭和四八年商標登録願第九六八九九号をもとの出願とする分割出願)をしたところ、昭和五七年六月二五日拒絶査定があつたので、同年八月一八日審判を請求し、昭和五七年審判第一七一三四号事件として審理された結果、昭和六〇年七月二三日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年八月二八日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(一) 本願商標の構成、指定商品、登録出願の日は前項記載のとおりである。
(二) ところで、登録第三六四七七一号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)のとおり「Felix」の欧文字を横書きしてなり、旧第一八類「写真用器械器具及其ノ各部、其ノ他本類ニ属スル商品」を指定商品として、昭和二〇年一二月一八日に登録出願、昭和二一年五月一六日にその登録がなされ、その後、昭和四一年一一月二五日及び昭和五一年一二月八日にそれぞれ商標権存続期間の更新登録がなされたものである。